「背中スイッチ」は本当にあるの?|助産師が教える“泣かない寝かしつけ”と赤ちゃんの安心メカニズム | 助産師ひまり

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「背中スイッチ」は本当にあるの?|助産師が教える“泣かない寝かしつけ”と赤ちゃんの安心メカニズム

抱っこでやっと寝かしつけた赤ちゃんをベッドに置いた瞬間に泣き出す——そんな経験、ありませんか?「また起きてしまった」「私の抱っこじゃダメなの?」と心がざわつく夜。 でも安心してください。あなたが悪いわけではありません。むしろ、その“背中スイッチ”には、

赤ちゃんの本能と身体の仕組みが深く関わっているのです。

1. 「背中スイッチ」とは?本当の場所は“背中”じゃなかった

「背中スイッチ」という言葉、育児中のママなら一度は耳にしたことがあります。

「抱っこで寝かしつけたのに、ベッドにおろしたらスイッチが入り、ギャン泣き…」という現象を指します。 けれど、最新の研究では、このスイッチ、実は“背中”ではなく“お腹側(=親と赤ちゃんが接する部分)にある可能性が高いことが示されています。

赤ちゃんはママやパパの腕の中で安心しながら眠りに入ります。 その間、背中側は親の体温や抱き心地で“守られている感覚”を受けており、 ところが、ベッドなどに身体が離れる瞬間、急激な体温変化や圧変化を感じて「落ちる!」と本能的に捉え、目を覚ましてしまうというメカニズムです。

この現象を理解するためには、まず研究の視点に目を向けてみましょう。

2. 文献で読み解く“抱っこして歩く”効果 ―理研の「輸送反応」研究から

育児現場で「抱っこして歩くと泣き止む」という経験則は多くの方が肌感覚で持っています。

しかしそれが「なぜ起こるのか」「どうすれば起きにくくするか」を科学的に検証したものが、理化学研究所(理研)による「輸送反応」研究です。

まず、2013年4月19日のプレスリリースでは、ヒトおよびマウスにおいて「親に抱かれて歩かせる(運ばれる)と、泣きが減少・心拍数低下が生じる」ことが明らかになりました。 この現象を“輸送反応と名付け、

✔ 抱かれて歩き出して約3秒で心拍数が有意に低下

✔ 赤ちゃんの自発運動・泣く量ともに低下 などが確認されました。

その後、2022年9月14日のプレスリリースでは、より育児現場で使いやすい視点で追加の実験がなされました。抱っこして5分歩くと、泣いていた赤ちゃん全員が泣き止み、約半数が寝つくという結果です。 また、寝ている赤ちゃんをベッドに下ろすタイミングについて「抱っこしてから5〜8分待つ」ことで起きにくくなるという知見も提示されました。

3. 理研研究から学ぶ“寝かしつけ”のポイント

上記の研究をもとに、次のようなポイントが整理できます:

  • 抱っこして一定のペースで歩く(運動刺激)ことで赤ちゃんがリラックスし、泣きが減る
  • 寝入るまで抱き続け、「眠りが深くなるサイン(=副交感神経優位・心拍間隔拡大など)」を待つ
  • ベッドなど親から離す際、体が離れ始める瞬間に覚醒反応が起きやすい
  • (背中スイッチ誤解)

特に注目すべきは、研究が「背中がベッドに着くとき」ではなく「親から体が離れ始めた瞬間」に心拍数が上がる=覚醒方向に変化しているという点です。

つまり、赤ちゃん側の「離れる」あるいは「環境変化を感じる」タイミングを避ける工夫が寝かしつけに有効であることが科学的に示されたのです。

4. 赤ちゃんの眠り基礎知識と“背中スイッチ”の関わり

ここで、赤ちゃんの睡眠構造・生理的背景にも触れておきます。 赤ちゃんの眠りは大人と比べて構造が違い、特に以下の点を知っておくと対策が立てやすくなります。

  • 浅い眠り(ステージ1・レム睡眠):寝入りばな、目を動かしたり手足をちょこちょこ動かしたりする状態。刺激で起きやすい。
  • 深い眠り(ノンレム睡眠):呼吸がゆっくり安定し、手足の力が抜ける状態。「置いても起きにくい」タイミング。

理研の2022年の報告では、ベッドに置いても起きないグループの赤ちゃんは、平均「8分間」ほど抱っこされたまま寝入ってから下ろされていたのに対し、起きてしまったグループは平均「3分」で置かれていたというデータがあります。 このことから、「寝入ってから5〜8分を目安に下ろす」ことが、赤ちゃんが深い眠りに移行するためにひとつの目安となるという示唆が得られています。

さらに、寝ている間に – 抱っこをやめて体を離す – 向きを変える – 手の位置を変える などを行うと、赤ちゃんの心拍数が速くなり覚醒反応が出やすいことも確認されています。

これがいわゆる「背中スイッチ=置いたら泣く」の根本原因のひとつと考えられます。

5. 寝かしつけ成功につながる「対策8選」

ここまでの研究知見と育児現場での経験をもとに、実践的・寄り添いな内容で「背中スイッチ」を回避し、ぐっすり眠ってもらうための対策を8つご紹介します。

  1. 一定のペースで「歩き抱っこ」5分ほど
    歩くペースを変えず、途中で止まったり方向転換をしたりせず「淡々と」抱っこをします。赤ちゃんの体をママやパパに密着させて、背中側に守られている感覚をつくってください。理研の研究でもこの歩き抱っこが有効であることが示されています。

お布団を事前に温めておく
抱っこ時と布団時で体温差があると、赤ちゃんはびっくりして目を覚ましやすくなります。湯たんぽやブランケットで“ひんやり”感を減らしておきましょう。もちろん、寝かせるときには湯たんぽを外すなど安全には十分配慮を。

深い眠りになってから寝かせる
赤ちゃんが眠りについたら、そのまますぐにベッドに置いてしまわず、5〜8分抱っこを続けてください。その間に、眠りが深くなっていくタイミングを待つことが、起きにくくするカギです。

眠り始めてから5分~8分が勝負!

爆睡サインを見逃さない
赤ちゃんが“これは寝た!というタイミングのサインは以下の通りです:
・手足の力が抜けてだらんとしている
・呼吸がゆっくり・規則的
・目がピクピク動いていない
・顔の表情が穏やかで、口が少し開いていることも
この状態になったら、寝かせるタイミングとしてはかなりベストです。

    お尻からゆっくり着地させる
    いざベッドに置くとき、背中から“ドスン”と落ちるようにではなく、「お尻からゆっくり体を離す」ように着地させましょう。これにより「落ちる感覚」を和らげ、赤ちゃんの安心を保ちやすくなります。

    起きてしまったら“抱き上げず”お腹に手を当ててトントン
    すぐ抱き上げたくなりますが、まずは優しくお腹に手を当て、トントンして「私はここにいるよ」という安心を伝えて。赤ちゃん自身が「もう少し寝るね」と戻っていくこともあります。

    日中たくさん遊び、夜はしっかり眠るリズムをつくる
    研究によると、1歳前後には「昼は遊ぶ」「夜は寝る」というリズムが徐々に整ってきます。遊びが少なかったり、昼寝が長すぎたりすると、夜の寝かしつけが難しくなることも。活動量を意識してリズムづくりを。

    ママ自身の心と身体を整える
    焦りや不安を抱えていると、その感情は赤ちゃんに伝わります。「うまく寝かせなきゃ」「私がちゃんとしなきゃ」と張り詰めず、ママ自身に“休む時間”を許してあげてください。あなたの温もりは、赤ちゃんにとって世界一安心できる場所です。

      6. いつまで続くの?「背中スイッチ」の卒業時期

      「このままずっと続くの?」と不安になるママも多いかもしれません。 多くの赤ちゃんは、1歳前後になると、昼間しっかり遊び、夜は寝るというリズムが身につき、「背中スイッチ」が起きにくくなる傾向があります。 ただし、この時期には個人差が大きく、2歳近くまで寝かしつけに時間がかかる子もいます。ですので、焦らず「今はこういう時期なんだ」と受け止めながら、親子で寄り添って進んでいきましょう。

      7. 助産師からのメッセージ

      赤ちゃんの寝かしつけは、一見“簡単に見えるけれど、本当に難しいものです。 どんなに頑張っても寝てくれなかったり、やっと寝てくれてもすぐ目を覚ましたり…。 そんな夜を過ごしたママには「よく頑張ってるね」と伝えたい。

      あなたの抱っこで、赤ちゃんは“安心”を感じています。 たとえ上手にいかない日があっても、それはあなたのせいではなく、赤ちゃんの成長の一部。

      そして、ママがそばにいるだけで、赤ちゃんにとっては<100点満点>です。 気負わず、少しずつ試していけば大丈夫。 ママも“ゆるく休める時間”をつくってくださいね。あなたの頑張りは、ちゃんと赤ちゃんに伝わっています。

      8. まとめ:背中スイッチは“親子の信頼スイッチ”

      「背中スイッチが起きる=私の抱っこじゃダメなんだ」と思ってしまいがちです。 でも実は、それは赤ちゃんが「ママの抱っこで安心している」「離れたくない」という**信頼の表れ**とも言えます。

      だから、背中スイッチを“障害”ではなく、“絆スイッチ”として受け止めてみてください。

      一緒に少しずつ、丁寧に、眠りの習慣を育てていきましょう。

      あなたと赤ちゃんの、これからの沢山の夜に、ぬくもりと安心がありますように。

      補足:文献・研究出典

      • 理化学研究所「抱っこして歩くと赤ちゃんがリラックスする仕組みの一端を解明」。2013年4月19日プレスリリース。ヒト12組・マウス実験など。 理研+1
      • 理研「赤ちゃんの泣きやみと寝かしつけの科学―寝た子を起こさずベッドに下ろすには?」2022年9月14日プレスリリース。5分歩行・5〜8分待機データなど。 理研+1

       

       

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